例えば走ってみる。
それもかなり早い。
全力疾走である。
どうやら壁はないらしい。
真っすぐ進もうと思えばどこまでも進むことができる。
ずっと真っすぐ走っているのに進んでいる気が全くしない。
これはどうしたものか。
ある程度走ったところで、元の位置にもどされるのだろうか。
私は、今いる場所に目印をつけることにした。
足元には赤いバッテンをつけた。
私は再び走り出す。
それもかなりはやい。
全力疾走だ。
足元を見てみる。
目印はない。
どうやら前に進んでいることに間違いはないらしい。
しかし、いくら進んでも何も見えない。
新しい発見がないのならば、進んでいないのと等しいと言えるかもしれない。
もちろんこれは、右に進もうが左に進もうが同じこと。
全方向なのである。
真っすぐ前に進んだあと、後ろを振り返って進むのは果たして戻っているのか、進んでいるのか。
甚だ疑問ではあるが、それは今考えることではないのかもしれない。
どの方法に進んでも同じならば、あとに残るのは2つしかない。
上に行くか、下に行くかだ。
今いる位置から天井は見えない。
つまり上に行くには鳥のように羽を生やすか、もしくは身長を伸ばしてみるよりほかにない。
身長が伸びるまでにはまだまだ時間がかかりそうなので、私は下へ進むことを決めた。
自ら下に行くことが、現状の打開になることもあるかもしれない。
地面を掘り進めるのだ。
固い。
ただでさえ固いのに道具もなしに素手で掘り進めるのは至難の業だ。
まるで自らの手を大根おろしのようにすりおろしているかのようだ。
それからどれくらい時間が経ったであろうか。
やっとのことで、膝が埋まるくらいの穴が掘れた。
私の腕はもう使い物にならなくなっていた。
何よりもう今朝から走りっぱなしで体力の限界である。
いつまでこんな生活を続けなければならないのか。
私は考えることにした。
ここに来てから数日、腹は減らないが体力は減っていく。
眠くもならないが、集中力はなくなっていく。
はやくここから出たい。
はやる気持ちだけが、ただひたすらに積もっていくのだ。
成功法ではだめなのかもしれない。
何か特殊な脱出法があるに違いない。
私は自分の持つすべての脳を使いありとあらゆる手段を試した。
どこかに抜け穴があると思い、ひたすら飛び跳ねてみたり。
掘り返した土を団子にして思い切り天井に向かって投げつけてみたり。
一旦、あきらめてひたすら睡眠をとることに注力してみたり。
たまには一句読んでみちゃったり。
暗闇に 流れる汗の 静けさよ
だめだった。
何一つとして上手くいくことはない。
私の人生はこんなところで終わるのか。
そんなわけにはいかない。
しかし、己の力だけではもはやどうすることもできない。
誰か助けてくれ!!!
私は叫んだ。
叫ぼうと思ったわけではない。どうにもならないと思うと自然と口から飛び出したのだ。
はーい。今行きます。
どこからともなく声が聞こえたかと思うと、私の前に眩いばかりの一筋の光が差し込んできた。
どうやら私は忘れていたらしい。
人に頼るということを。
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