ここは、綺麗な海沿いの街。
僕はこの町の高校に通う学生だ。
成績は平均的。運動神経も平均的。見た目も・・・平均的だと思ってる。
毎日学校に通っているから、いつも同じ時間に家をでているんだ。
最近気づいたことがある。
毎朝、同じ場所で会う人がいる。
犬の散歩をしている近所のおばさんだ。
おばさんの散歩ルートは分からないけれど、僕が、家を出るのを少し遅れると、おばさんも学校の方へ進んでる。
おばさんがいつもより、学校の方へ進んでいると今日は遅刻かもしれないと思ってあせることもある。
でも、大丈夫。おばさんに会えれば大体、間に合うのだ。
ある日、僕は寝坊をしてしまった。
慌てて家を飛び出すと、いつもいるはずのおばさんが、見当たらない。
今日は散歩へでていない可能性もあるけど、そうじゃない。
散歩を終えておうちに帰ってるに違いない。
同じ道なのに、いつもいる人がいないだけで不安になる。
僕は躍起になって自転車のペダルを回した。
必死になってペダルをこいでいると、いつもは気にしなかったものが、気になった。
海沿いの堤防にこしかけて、タバコをふかしているおじさんが目に飛び込んできたのだ。
人がこんなに必死になっているというのに、あのおじさんときたら、のんきなもんだ。
その一瞬しか目に入らなかったが、僕は妙にそのおじさんが気になった。
次の日、僕は寝坊をしなかった。
いつもの手順で、朝の支度をこなし、いつもの場所で犬の散歩のおばさんに会う。
実に好調なすべりだしだった。
軽快に自転車をこいでいると、僕は昨日のおじさんを思い出した。
僕は昨日の堤防の近くまで来ると、ふっとおじさんがいた方を覗いた。
おじさんはそこにいたのだ。
おじさんは昨日と同じ場所に、同じ格好で、同じ姿勢で、同じようにタバコをふかしていた。
おじさんは老けているように見えるが、おじいさんというほどでもない。
この近くに住んでいるのだろうか。
でも、2日間くらいなら同じ行動をしていてもおかしくはない。
僕はそう思って、学校へ向かった。
しかし、おじさんは次の日も、その次の日も、そこに座っているのだった。
そんな生活が一か月を過ぎた頃、僕はどうにも気になってしまい、犬の散歩をしているおばさんに、あのおじさんのことを聞いてみることにした。
おばさんは僕に質問を投げかけられると、きょとんしとした顔で言った。
あれはそういうロボットなのよ。
その言葉に僕もきょとんとした。
あんなに精巧に作られたロボットがあるだろうか。あるとして、なんのために作られて、なんのために起動しているのか。
僕は変な冗談だと思って、苦笑いをした。
そんな苦い顔した僕に、おばさんは続けて言った。
もうこの世界には生きている人間の方が少ないのよ。
だからね、少しでも寂しくないように、なんでもない住人のロボットがたくさん作られているの。
お母さんから聞かなかったのかしら。
おばさんはそうつぶやくと、僕の目をじっとみた。
すると、おばさんは無言で近づいて来て、僕の背後にまわってくる。
あなたもそろそろ燃料切れね。
おばさんの声が聞こえた。
そして、僕の視界は真っ白になった。
0 件のコメント:
コメントを投稿