とある日のことだ。
私はいつものように犬の散歩へ出かける。
犬の名前は「いぬ」
それはまるで人に「ひとし」と名付けるようなものだ。
いつもと代わり映えのしない道。
本当はこの10年の間に建物が生えたり抜けたりしてちゃんと新陳代謝している。
だが毎日みているとそれは変わらない日常である。
我が愛する愛犬はシーズー犬でただでさえ力が弱いのに、10歳にもなるとますます弱い。
もはや、綱の先に何もつけていないようだ。
この広い公園を綱をもって歩く老人。
それじゃただの耄碌じじいじゃないか。
頼むぞいぬ。
もう少しばかり私をボケさせないでくれ。
そんなことを思っていると、手綱が意思をもったように暴れだした。
この感触は知っている。
どこぞの可愛い犬を見つけたか。
お気に入りの小便スポットに差し掛かったかのどちらかだ。
まったくお前もいい年だというのに可愛い子に尻尾を振りまくなんて。
私もいぬだったらどんなに良かったことだろうか
可愛い犬を連れ歩く人は大概、可愛い娘が多くて私も尻尾を振りまくどころか引きちぎって配ってやりたいぐらいだ。
ああ、この歳になると女の大概は可愛い娘なんだ。気にしないでくれ。
暴れる手綱に身を委ねて運ばれる。
この時だけだが、これじゃどっちが散歩してるんだか分かったもんじゃないな。
今度はどんな可愛い娘に合わせてくれるんだ。
しかし、辺りを見渡せどもそんなものはない。
小便ならさっき済ませたはずだ。
一体どこへ向かってるんだこのいぬは。
おい、そっちには何もないぞ。
何、慌ててやがるんだ。
引きちぎれんばかりの手綱に私の手の方がもたないと悟ったその瞬間だった。
いぬは穴に飛び込んだのだ。
その穴は大きめのマンホールくらいの穴だ。
悪趣味な野郎が持って行ったのか
とんでもないことをしてくれた。
私はいぬが余りの勢いでひっぱるものだから。
犬と一緒にその穴に落ちてしまったのだ。
わあああああ落ちるうううううう
どうなってんだこれはあああああ
たすけてくれええええええええええ
つんざくような悲鳴に気を取られた。
声が聞こえる。
いぬだ。
いぬが喋っている。
下から巻き上がる風に耐えながら目を凝らしていぬをみた。
たすけてくれえええええ
今日は早く帰ってひるねしたかったのにいいいい
くそじじいがとろとろあるいてやがるからああああ
なんだお前。
同じこと考えてたんだな。
これからも仲良くやっていけそうだ。
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